インフルエンザ脳症について

先月末の論文ではあるが、アメリカでいわゆるインフルエンザ脳症の小児例が増加しているという報告があった。

 

Influenza-Associated Acute Necrotizing Encephalopathy in US Children | Critical Care Medicine | JAMA | JAMA Network

 

jamanetwork.com

 

私はインフルエンザの専門家でも脳症の専門家でもないので細かいところは置いておいて、驚いたのは(既知だったようだが)遺伝子検査をした32例中15例(47%)に、関連するとされる遺伝子変異(主にRANBP2遺伝子)が認められたのだそうだった。

 

驚きポイントの一つ目は、アメリカではインフルエンザ脳症という病気に遺伝子検査をする体制になっていること。日本では、研究をしていない限りしないと思う。

 

二つ目はどうやら遺伝子変異が確かに関連していること。

 

どのRANBP2のどのバリアントが見つかったか、が、上記論文にははっきり書いていないが、下記によるとp.Thr585Metだろうか。

 

www.sciencedirect.com

 

このバリアントは、データベースでは1611744染色体にたった1アレルしか見つかっていない。

 

https://gnomad.broadinstitute.org/variant/2-108751993-C-T

 

論文によると、インフルエンザ脳症を発症した小児はワクチンを打っていないことが多い(接種者16%)とのことだった。

 

上記をまとめると、RANBP2:p.Thr585Met を持っている小児はインフルエンザワクチンを打ちましょう。とか、発熱時に早期に集中的治療を行いましょう。とできそうだ。

 

ただし、この病原バリアントは、アジア人のインフルエンザ脳症の症例では見つかっていないらしいので、実は日本人にはすぐ応用できる研究成果ではない。日本での研究の進展が望まれる。

 

もちろんインフルエンザ脳症自体の発症率は極めて低いので、これだけをターゲットに予防的に全ゲノムシークエンス(一人当たり実験だけで5万円、解釈を含めると何倍にもなる)を行うわけにはいかないのだが、イギリスなどでは新生児スクリーニング全ゲノム検査が始まっている。

 

www.england.nhs.uk

 

小児期の重篤な疾患で、ゲノム検査をすると予防できるかもしれない疾患は他にもあるはずだから、上に書いたように一疾患だけを見るとゲノム検査の費用対効果というのは難しいところがあるのだが、ゲノムはほとんど変化しないため検査は一生に一回で良いという大変強いメリットがある。そして、予防可能な対象疾患が複数、いや多数あれば、それら全てに対して費用対効果を計算可能だと思う(医療経済学も私は非専門なので、そう思ってるだけですが)。

 

さらに、ゲノムデータは産業利用することで創薬につながる可能性が強く指摘されており、しかも世界中の多様なデータを解析する重要性が指摘されている。

 

www.nature.com

 

有効性がどんどん積み重なっていって、ゲノム医療の恩恵を日本国民がもっと受けられるようになり、さらにそこから日本初の創薬につながるようなサイクルができるといいな。